住宅購入の選択肢として、空き家を選ぶ人が増えています。しかし、住宅購入は大きな買い物でもあり、できるかぎり慎重に検討したいと考える方も多いでしょう。
空き家を購入するには、建物の状態や税制面など、いくつか注意すべき点があります。知らずに購入してしまうと、後悔するかもしれません。
本記事では、空き家を購入する際の注意点を解説します。空き家を購入するメリットや、失敗しないための活用方法についても詳しく解説しますので、検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
空き家購入の現状

各地に存在する空き家は社会問題として取り上げられており、国は空き家の購入を積極的に勧めています。
まずは、国が空き家購入を促進する背景と実施している施策について解説します。
空き家の購入が促進される背景
総務省統計局の「土地統計調査」によると、日本の空き家は平成30年の時点で約848万9千戸も存在し、総住宅数に対する空き家率は13.6%となっています。
また、野村総合研究所「2030年の住宅市場」によれば、2033年には空き家の数が2166万戸、空き家率は約30.4%に及ぶと予測されています。
空き家を放置することは、さまざまな問題を引き起こす原因です。
例えば、家屋の倒壊やごみの不法投棄、不審火・放火、野良猫や害虫の繁殖など、地域の安全に大きな危険を及ぼす可能性があります。
世帯数が減少していくなかで、こうした悪影響を及ぼす空き家が今後もさらに増え続けていくと予想されることから、国を挙げて空き家の購入を促進しているのです。
空き家の購入における国の施策
防災や衛生、景観など、生活に悪影響を及ぼす空き家問題の解決に向けて、2015年(平成27年)5月26日に「空家等対策の推進に関する特別処置法」が施行されました。
具体的には、空き家の適切な管理の推進や利活用促進、税制面の補助、データベースの整備などが定められています。
この法律にもとづいて、各自治体では独自の支援制度や補助金など、空き家問題に対する施策を設けています。
空き家を購入する手順

空き家を購入する大まかな手順は、以下の通りです。
- 空き家を探す
- 購入の相談
- 資金計画を立てる
- 物件計画
- 購入の申し込み
- 売買契約の締結
- 住宅ローンの申し込み
- 決済と引き渡し
リフォームや建て替えを行う場合は、決済と引き渡し後に行います。
空き家の購入は、一般的な住宅の購入手順と異なることが多いため、あらかじめ把握しておきましょう。
空き家を購入する際の注意点

空き家を購入する際には、いくつかの注意点があります。
空き家購入で失敗しないためにも、以下6つのポイントを必ず押さえておきましょう。
注意点1:建物の状態に問題がないか確認する
築年数の古い空き家は、経年劣化による傷みや損傷が生じている場合もあります。安く購入できる反面、あまりにも経年劣化が進んでいる場合、修繕に高い費用が必要になることも少なくありません。
床や柱、屋根、給水管などに不具合はないか、雨漏りやシロアリ被害はないかなど、生活に支障が出るような問題はないか、建物の状態をよく確認しましょう。
とくに柱や床などの主要部分に不具合があると、内装のリフォームだけでは済まず、場合によっては建て替えが必要です。
購入前に建物の状態を確認し、修繕にはどれくらい費用がかかるのか見積もりをとっておきましょう。
注意点2:空き家になった理由を把握しておく
高齢者が老人ホームに入ってそのままになっていたり、実家を相続したまま放置されていたりと、空き家になる理由はさまざまです。
なかには、過去に建物内で事件や事故があった空き家や近隣住民との間でトラブルがあった空き家もあり、購入後にトラブルに巻き込まれる可能性もあります。そのため、売主に空き家になった理由を必ず確認しましょう。
プライバシーに関わる情報でもあるため、教えてもらえる範囲で聞いておくことをおすすめします。
注意点3:空き家購入にかかる税金を確認する
一般的な住宅はもちろん、空き家の購入にも税金がかかります。どのような税金がいくらかかるのか、あらかじめ調べておくことが大切です。
空き家の購入には、以下の税金が課せられます。
- 消費税
- 印紙税:不動産売買契約書や領収書などに課税される税金。
- 不動産取得税:不動産の取得に対して課税される税金。
- 登録免許税:登記、登録、特許などについて課せられる国税。
- 固定資産税:固定資産の所有者に課せられる地方税。
- 贈与税:財産が贈与される際にその財産に対して課せられる税金(空き家を譲り受けた場合にのみ発生します)。
また、地域によっては空き家を購入すると、税金が安くなる制度を設けている自治体もあります。空き家を購入する際は、各自治体の空き家購入制度を調べるようにしましょう。
注意点4:住宅ローン控除を受けられるか確認する
空き家の購入で住宅ローン控除を受けるためには、時間と手間がかかります。
また、住宅ローン控除には築年数の制限があります。戸建ては築20年以内、マンションが築25年以内でなければ、住宅ローン控除を受けられません。
そのため、築年数が古い空き家はほとんどが住宅ローン控除の対象外です。ただし、以下のいずれかの条件を満たすことで住宅ローン控除を受けられます。
- 既存住宅売買瑕疵保険への加入
- 耐震基準適合証明書の取得
それぞれの内容について解説します。
既存住宅売買瑕疵保険に加入する
既存住宅売買瑕疵保険とは、既存住宅において保険対象部位に隠れた瑕疵(建物の傾き、シロアリ、雨漏りなど)により生じた損害を補償する保険です。2016年から、国土交通大臣の指定した保険会社である住宅あんしん保証が提供しています。
既存住宅売買瑕疵保険は、専門の建築士によって住宅の基本的な性能についての検査を行い、この検査に合格することが加入の条件です。
既存住宅売買瑕疵保険には、売主が個人の場合と宅建業者(不動産会社)の場合で、2つのタイプがあります。
- 個人間売買タイプ:検査事業者または仲介事業者が買主に対して保証を行うために加入する保険です。当該住宅に瑕疵があった場合、買主は検査事業者または仲介事業に修繕を依頼できます。
- 宅建業者販売タイプ:宅建業者が宅地建物取引業法によって負う保証責任をカバーする保険です。
既存住宅売買瑕疵保険の対象部分は、建物の基盤となる部分のみで、保証期間は5年または1年間、支払い限度額は500〜1,000万円です。
検査費用は5〜10万円、保険料は2〜4万円と少し割高ですが、既存住宅売買瑕疵保険に加入することで前述の住宅ローン控除を受けられるほか、以下の税制に関する優遇措置が受けられます。
- 登録免許税の減税
- 不動産取得税に係る特別措置
- 住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税
耐震基準適合証明書を取得する
耐震基準適合証明書とは、建物の耐震強度が建築基準法によって定められた基準を満たしているかを証明する書類です。既存住宅売買瑕疵保険と異なり、耐震基準適合証明書は主に買主が取得します。
耐震基準適合証明書を取得するには、「耐震診断」が必要です。
耐震診断では、上部構造評点と呼ばれる点数を算出し、点数に応じて4段階で評価され、点数が1.0以上であれば耐震基準適合証明書が発行されます。
築20年以上の一戸建て、もしくは築25年以上マンションの空き家であっても、耐震基準適合証明書を取得すると、住宅ローン控除をはじめとするさまざまな税制面の優遇措置を受けられます。
- 住宅ローン控除
- 登録免許税の減税
- 不動産取得税の減税
注意点5:残置物の有無
残置物とは、前の居住者が処理せずそのままの状態にしてある物をいいます。
空き家の残置物は所有権が前の居住者になっていることもあり、勝手に廃棄できません。また、残置物が家具や家電などである場合、廃棄するためにお金がかかることもあるでしょう。
残置物がある場合は空き家の売主に相談し、適切に処理してもらうことがおすすめです。
注意点6:購入方法によっては自力で交渉しなければならない
空き家バンクを利用して購入した場合、自力で売主と交渉しなければならないケースもあります。
不動産会社などの仲介業者が空き家を販売する場合、空き家の購入後に発生したトラブルの解決や契約に関するミスへの対応など、仲介業者が一定の責任を負います。
しかし、空き家バンクを運営する自治体は、交渉や契約、トラブルの解決などには一切関与しません。そのため、空き家バンクで個人間売買の物件を購入をする場合は、自力で交渉や契約をしなければなりません。
自力での交渉が難しい場合は、不動産会社などの仲介業者を利用しましょう。
空き家を購入するメリット

空き家の購入は、主に3つのメリットがあります。
メリット1:購入費用が安い
空き家は、不動産市場に出回っている新築物件や中古物件と比べて安く購入できる場合があります。
不動産市場に出回っている物件は、エリアや築年数などの内容によって価格が決まります。これに対して空き家は、売主との交渉によって価格が決まることから、交渉次第で安く購入できることもあるのです。
あえて空き家の購入を選択する人のなかには、物件の購入費用を抑えることでリフォームにお金をかけ、自分なりの暮らしやすいマイホームを作るという方もいます。
地域によってはリフォームに補助制度を設けている自治体もあるため、自分好みにリフォームしたい方にとって、空き家の購入は大きなメリットといえるでしょう。
メリット2:立地条件の良い物件が多い
空き家は昔から建てられていることもあり、立地条件の良い物件が多いです。というのも、住宅などの不動産は立地のよい場所から建てていくことが多いため、古い空き家ほど立地条件に恵まれています。
空き家のなかには駅近や人気エリアの物件もあり、安い価格で好立地の物件を購入できるのはとても魅力的です。
メリット3:国から補助金が出ている
前述した通り、国は空き家の購入を促進しているため、空き家のリフォームやリノベーションに補助金を設けている自治体もあります。
例えば、北海道上川町の「空き家改修支援事業補助金」では、空き家の改修に最大80万円の補助金が交付されます。
空き家を購入したい地域が決まっている方は、補助金制度の有無を確認してみましょう。
※2023年4月時点に執筆した記事です。最新情報はこちらのページをご確認ください。
空き家を購入する方法

空き家は、主に4つの方法で購入できます。
空き家バンクの利用
空き家バンクは、空き家を購入したい人と売りたい人のマッチングサービスです。各自治体によって運営されており、全国の空き家の情報を閲覧できます。
空き家バンクには、主に以下の2サイトがあります。
また、自治体ごとに空き家バンクのホームページが用意されている場合もあります。すでに引っ越し先を決めている方は、各自治体の空き家バンクもチェックするようにしましょう。
全国地方公共団体空き家・空き地情報サイトリンク集 | 国土交通省
不動産情報サイトの利用
不動産会社でも空き家を取り扱っている場合もあり、不動産総合情報サイトで空き家を探せます。
例えば「不動産総合ジャパン」では、空き家選びからトラブルにまで対応してくれるため、売主と自力での交渉が難しい場合などには活用してみましょう。
現地に足を運んで直接交渉する
実際に現地に出向いて直接話を聞くことで、不動産会社を経由するよりも良い物件が見つかることもあります。直接物件を探す方法は、とくに地方の空き家を探す場合に有効です。
とはいえ、空き家を探しにわざわざ地方に出向くのはハードルが高いと感じやすいため、旅行や出張で出向いた際に探してみるとよいでしょう。
また、引っ越し先に知り合いがいれば、空き家情報を代わりに調べてもらうこともできます。
競売や公売の利用
競売や公売は、通常より安い価格で空き家を購入したい方におすすめです。
住宅ローンや税金の滞納によって押収された物件が売り出され、オークション形式で購入するという仕組みになっています。オークション形式であるため、市場にある空き家よりさらに安く購入できることもあるでしょう。
なるべく安く空き家を購入したい方は、ぜひ「不動産競売物件情報サイト」を定期的にチェックしてみてください。
空き家を有効的に活用する方法

購入後の空き家を有効的に活用する方法を3つ紹介します。ぜひ、今後の空き家を購入したあとの活用方法として参考にしてみてください。
自分の理想に近づくようリフォームする
空き家を購入する人の多くが、購入後に自分好みのリフォームやリノベーションを楽しんでいます。
賃貸では実現できなかったことも、空き家を活用することで自由にアレンジができ、理想の物件へと近づけることもできます。最初から建物が決まっているため、完全なオーダーメイド住宅ほどの自由はありませんが、それでも工夫次第でいくらでも住みやすい環境を作り出せるでしょう。
実際に、空き家をリフォームしている様子をブログやSNSで発信している方が多く、雑誌でリフォームやリノベーションが特集されていることもあり、空き家リフォームの人気が上昇しています。
事業経営を行う
空き家をシェアハウスや民泊、飲食店などの事業経営をする場として活用している人も多いです。
収益を見込んだ投資として購入する必要があるため、赤字にならないように綿密な計画が必要です。しかし、大きな収益を求めずのんびりと経営する方法もあり、せかせかとせずに暮らすという人もいます。
自分のやりたいことがある人にとっては魅力的な空き家の活用方法です。
賃貸物件として貸し出す
建物の状態がよく、安全性の高い空き家は賃貸物件として貸し出すこともできます。
空き家はマンションなどの不動産と比べ価格が安く、初期投資が少なく済むため、不動産投資初心者にとって参入しやすいでしょう。
空室の心配のない人気エリアでは、長期的な収益も期待できます。
注意点を押さえて空き家を購入しよう

今回は、空き家を購入する際の注意点について解説しました。空き家を購入して理想の生活を送るためには、いくつかの注意点を押さえる必要があります。
とくに、住宅ローン控除や課せられる税金など税制面はしっかり把握しておくことが大切です。
空き家の購入を検討している方は、今回紹介した6つのポイントに注意しながら理想の空き家を探してみてください。