一般的な住宅よりも購入費用が安く、昔ながらの雰囲気に特徴がある古民家。古民家をリフォームすると、自分好みの間取りや室内デザインにアレンジできます。
古民家のリフォームを検討している方のなかには、「改修に失敗したくない」「どの程度の費用がかかるのか」といった思いに駆られ、なかなか一歩を踏み出せないケースもあるでしょう。
細かい計画を立てずにリフォームを進めてしまうと、失敗につながる恐れがあるため、あらかじめリフォーム時の費用相場や注意点を把握しておくことが大切です。
本記事では、古民家リフォームの魅力や費用相場について解説します。失敗しないためのポイントや、補助金・減税制度についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
古民家をリフォームする3つの魅力

伝統構法と呼ばれる独特な手法で構築された古民家には、日本古来の温かみを感じさせるさまざまな魅力があります。
その古民家にリフォームを加えることで、次のようなメリットが生まれます。
- 趣のある空間と暮らしやすさを両立
- 固定資産税を軽減できる
- 建物の寿命延長が期待できる
趣のある空間と暮らしやすさを両立
古民家は、伝統的な建築手法や貴重な資材を活用した、独特の質感や雰囲気に特徴があります。土間や縁側など、古民家特有の空間も魅力の一つです。
これらの特徴を残しつつリフォームを行うことで、趣ある空間と暮らしやすさを両立できます。
劣化した壁の補強や、水回り設備の取り替え、床の張り替えなど、生活するうえで不便に感じる箇所をリフォームすれば、快適な生活が送れるでしょう。
また、耐震性の補強やバリアフリーの工事を行うことで、安全性と住み心地の両面を改善できます。
固定資産税を軽減できる
固定資産税は、「固定資産税評価額×1.4%(標準税率)」で算出します。その際に「経年減価補正率」と呼ばれる、築年数が経つに連れて評価額が下がる仕組みが適用されます。
例えば、木造建築の経年減価補正率は、築年数が27年以上になると0.2%が適用され、固定資産税の軽減が可能です。
そのため、築年数50年以上の建物が一般的な古民家は、固定資産税の軽減対象になり得ます。状況にもよりますが、新築住居を建てたり築浅物件を購入したりするよりも、築年数が経過した古民家を購入したほうが税金を安く抑えられるでしょう。
ただし、地域によって固定資産税率の条例が異なるため、各自治体の窓口で詳細を確認するのがおすすめです。
建物の寿命延長が期待できる
古民家には、ヒノキやケヤキなど、強度の高い木材がよく使用されています。
強度の高い木材と、建物に対する補強工事を組み合わせることで、より耐久性が向上し、寿命を延ばせる可能性があります。
(以下引用)
引用元:株式会社大室建築|古民家など木造住宅が持続可能な理由
民家に使用されている材料は、基本的に全て持続可能です。(中略)木材も腐朽菌により地面に近い部分などから腐っていきますが、根継ぎなどの補修技術を用いることで一部の劣化で全体の寿命には影響を及ぼさない持続性を持っています。
例えば耐震補強工事では、接合箇所の補強や、柱・梁などの構造部の増設によって建物の耐久性を高められます。結露・カビの発生を防ぐ断熱リフォームや、住宅を長持ちさせる劣化対策工事を検討するのも一案です。
古民家リフォームの種類

古民家のリフォームは、大きく4つの種類に分けられます。古民家の状態や予算に合わせた適切なリフォームを行うためにも、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
- 一般的なリフォーム
- 半解体再生リフォーム
- 全解体再生リフォーム
- 移築再生リフォーム
一般的なリフォーム
リフォームでよくあるケースは、外壁・屋根・床などの補修や、劣化した水回り設備の入れ換えです。劣化が目立つ部分に補修を加えて、快適性を取り戻します。
これらの一般的なリフォームでは、基本的に柱や梁などの構造部分には手を加えません。そのため、古民家ならではの雰囲気を残しつつ、住み心地を改善できるのが利点です。
補修する箇所や劣化具合によって費用が大きく異なるため、施工会社に相談しながら計画を立てると良いでしょう。
特に水回りの設備で給排水管の劣化を見落とすと、住み始めてから水漏れが起きる可能性もあるため、細かく確認してもらうことをおすすめします。
半解体再生リフォーム
半解体再生リフォームは、スケルトン解体再生リフォームとも呼ばれ、柱や梁などの構造部分の補修や補強を行います。屋根や壁、床は撤去して、構造部分をリフォームすることで、建物の歪みや傾き、床の凹凸などの改善が可能です。
半解体再生リフォームのメリットは、建物の強度を大幅に向上できることです。より丈夫な建材に取り替えるほか、コンクリートで補強すると、建物の耐久性を高められます。
リフォームする箇所はもちろん、使用する材質によっても費用が変動するため、慎重に建材を選択しましょう。
全解体再生リフォーム
全解体再生リフォームは、古民家を一度すべて解体し、柱や梁などを洗浄してから再利用する方法です。劣化が激しい箇所を補強、あるいは部材を取り替えて建物の強度を高めます。
古民家特有の柱や梁を再利用することで、一般的な住宅にはない味わい深さや質感を保てます。
ただし、再利用する箇所が多いと、耐震性の部分に不安が残ります。一部の部材のみ耐震性に優れたものを利用するなど、施工会社とよく相談するのがおすすめです。
移築再生リフォーム
移築再生リフォームは、古民家を建てる場所を移動したうえでリフォームを行う方法です。
移築再生リフォームには次の3種類があります。
- 完全移築再生リフォーム:ほぼすべての部材を再利用する工法
- 部分移築再生リフォーム:もともとの部材と新たな部材を組み合わせる工法
- 構造体移築再生リフォーム:柱や梁などの構造部分のみを再利用する工法
移築再生リフォームは、好みの場所に気に入った古民家を建て直せる魅力があります。
ただし、建材の運搬や土地の購入が必要なため、ほかのリフォームに比べて費用が高くなる点に注意が必要です。
古民家リフォームの費用相場

古民家リフォームの費用相場は物件の状態によって異なるため、一概に明言はできませんが、最低でも150~300万円程度の予算を用意しておくべきでしょう。
柱や梁などの構造部分の劣化が激しいと、1,000万円や2,000万円の費用がかかることもあります。
リフォーム箇所ごとの大まかな目安は次の通りです。
施行内容・箇所 | 費用相場 |
---|---|
耐震リフォーム | 120~150万円 |
断熱リフォーム | 0.4~3万円/平方メートル |
屋根 | 15~200万円 |
外壁 | 20~300万円 |
水回り | キッチン:50~150万円 トイレ:15~60万円 浴室:50~200万円 洗面所:15~50万円 |
間取り変更 | 間仕切り壁設置:5~20万円 壁・ドアの新設:15~30万円 LDK変更:100~300万円 |
バリアフリー化 | 手すり設置:3~10万円/箇所 段差解消:2~20万円/箇所 床材変更:10~20万円 |
安全性を高めるためのリフォーム
耐震
築年数が経過した古民家は、経年劣化が進み耐震性に不安が残ります。
築50年以上を基準とする古民家は、一般的に新耐震基準が制定された1981年6月よりも前に建設されています。そのため、新耐震基準が適用された建物に比べ、耐震性に劣るケースがほとんどです。
このような事情があることから、古民家には耐震リフォームが不可欠だといえるでしょう。
耐震リフォームの費用相場は120〜150万円程度です。まずは専門家による耐震診断を受け、必要に応じて適切な補強工事を行うことをおすすめします。
屋根・外壁
屋根や外壁が劣化している場合、所々の隙間から雨漏りが生じる可能性があります。
雨漏りは室内が濡れるだけでなく、柱や梁などの構造部分が腐食する原因にもなるため、安全性を維持するうえでもリフォームが欠かせません。
屋根や外壁のリフォームは、必要な費用に大きな差があります。
簡易的な塗装であれば20万円程度で済むこともありますが、既存の屋根上に新しい建材を重ねる「重ね葺き」や、既存の建材やルーフィングを撤去する「葺き替え」では、50~250万円ほどの費用が必要です。
水回り
水回り設備のなかでも、給排水管の劣化には注意が必要です。
給排水管の法定耐用年数は15年です。古民家の場合は建物が古いことから、メンテナンスが行き届いていないと、給排水管が大きく劣化している可能性も考えられます。
劣化した箇所にひび割れが生じ、水漏れを起こす可能性があるため、専門家による診断のうえ取り替えることをおすすめします。
また、古民家の改修前の水回り設備は、使いにくいケースも珍しくありません。熱が逃げやすい窓のあるタイル張りの浴室や、和式のトイレなどは、現代の生活に馴染みにくいでしょう。
快適さを高めるため、好みに応じてユニットバスや洋式トイレに変更するのも一案です。加えて、キッチンもガスコンロではなくIHにするなど、コストと利便性を加味しながらリフォームを検討しましょう。
快適に暮らすためのリフォーム
省エネ化
省エネ化は、住宅にエネルギー効率の高い設備を導入する方法です。省エネ基準に沿って古民家をリフォームすることで、断熱性や気密性、換気性能が向上し、快適さが増すだけでなく、建物の劣化を防ぎます。
省エネ基準とは、建物のエネルギー消費性能の向上に関する法律である、建築物省エネ法で定められた省エネ性能に関する尺度です。
例えば、高効率空調設備やLED照明、断熱窓サッシ・ガラスなどを取り入れることで、建物の省エネ性能の向上につながります。また、太陽光発電システムなどで自らエネルギーを生成することを、創エネと呼びます。
バリアフリー化
高齢の方と一緒に暮らす場合は、バリアフリー工事を検討すると良いでしょう。
古民家が建てられた頃は、バリアフリーという概念がなかったため、階段が急だったり、段差の高さが気になったりと、快適性に欠けている場合があります。
このような住宅では、手すりの設置や段差解消などのリフォームが効果的です。
古民家リフォームで失敗しないためのポイント

ここまでお伝えしたように、古民家の状態によっては高額なリフォーム費がかかるため、事前に入念な計画を立てることが大切です。
計画的にリフォームを検討するには、次のようなポイントを意識してみてください。
- 余裕のある予算を組む
- 耐震・断熱リフォームが欠かせない
- 間取りの変更は優先的に行う
- 好みだけで建材を選ばない
余裕のある予算を組む
古民家のリフォームでは予算を超えてしまう場合があります。
実際にリフォームを始めてみると、劣化具合が想定を超え、追加の費用が生じるケースも少なくありません。そのため、できるだけ余裕を持たせた予算の設定が大切です。
コストを抑えるために部材を再利用するのも良いでしょう。
耐震・断熱リフォームが欠かせない
古民家のリフォームでは施工箇所に優先度を付けましょう。
まずは、耐震性や屋根・外壁などの安全性を優先し、余裕のある場合に快適性を高めるリフォームを行うのがおすすめです。
また、断熱性に欠ける可能性も考えられるため、断熱リフォームの優先度も高めに設定しましょう。
間取りの変更は優先的に行う
水回りのリフォームでは電気工事と配管工事が必要です。
後から間取りを変更しようと思っても、排水管などの配置によっては、変更できる箇所が限定される可能性があります。そのため、間取りの変更は優先的に計画することをおすすめします。
間仕切りの設置だけで済む場合には、工事費用が比較的抑えられます。
好みだけで建材を選ばない
リフォームに使用する建材を好みだけで選ぶと、もともと使われている建材と調和せず、古民家ならではの雰囲気が失われる可能性があります。
そのため、デザイン面にも強い施工会社を選び、十分に話し合うことが大切です。
また、貴重な建材にこだわりすぎると、費用が高額になる可能性もあるため、必要なものを見極めて、適切な建材を選びましょう。
古民家リフォームに関する補助金・減税制度

古民家のリフォームに関する補助金や減税制度には、主に3つの種類があります。
リフォームにかかる費用を抑えるためにも、それぞれの内容を確認しておきましょう。
- 住宅リフォームの税制特例
- 住宅ローン減税
- 各自治体の補助金
住宅リフォームの税制特例
住宅リフォームの税制特例とは、以下のリフォームのいずれかを行った場合、工事費用の一部を所得税から控除する制度です。
- 耐震改修
- 省エネ改修
- バリアフリー改修
- 長期優良住宅化
- 同居対応改修
また、所得税だけでなく固定資産税の減税も可能です(同居対応改修は対象外)。例えば耐震改修の場合、工事費が50万円(税込)を超えた場合に、翌年度分の固定資産税が2分の1に減額されます。
ただし、減税対象にはいくつかの条件があるため、あらかじめ確認しておきましょう。
※2023年11月に執筆した記事です。最新情報は国土交通省|住宅:各税制の概要をご確認ください。
住宅ローン減税
住宅ローンを利用して古民家をリフォームする場合に、所得税が減税される制度です。最大13年間、年末のローン残高の0.7%分が所得税から控除されます。
住宅ローンの借入限度額は、長期優良住宅やZEH水準省エネ住宅などの条件によって異なります。
基本的に省エネ性能の高い住宅ほど、高額な借入限度額が設定されています。
※2023年11月に執筆した記事です。最新情報は国土交通省|住宅ローン減税をご確認ください。
各自治体の補助金
古民家のリフォームには、各自治体が独自に行っている補助金制度もあります。
例えば、耐震診断や耐震補強工事にかかる費用の一部を支給する制度が代表的です。
そのほか、自治体によって省エネ改修費の支給や、バリアフリー化の支援を行っているため、ホームページや役所の窓口などで確認することをおすすめします。
古民家をリフォームして安全かつ快適な生活を送ろう

古民家をリフォームすると、独特な雰囲気を残しつつ、より安全で快適な生活が実現できます。ほかにも、補助金制度や減税制度を活用できるなど、多くのメリットがあります。
また、古民家のリフォームを失敗しないためには、予算設定や優先順位付けといったポイントを理解することが大切です。各ポイントを押さえ、古民家のメリットを最大限に活かした理想のリフォームを実現させましょう。
地方には、古民家が数多く点在している地域もあり、独自の補助金制度を実施していることもあります。そのため、地方移住によって理想的な古民家が見つかる可能性が高まります。
地方移住のメリットや成功のコツを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。