長い築年数が経過していることが多い古民家は、リノベーションを実施して建物の性能を向上させるケースも珍しくありません。
その際に気になるのがリノベーションの費用や、注意すべきポイントではないでしょうか。
リノベーションには高額な費用がかかることもあるため、施工後の後悔や失敗を避けるためにも、古民家をリノベーションするメリットや注意点、必要な費用などを把握しておくことが大切です。
本記事で古民家リノベーションに関する基礎知識を解説していますので、ぜひ参考にしてください。リテラシーを身に付けることで、状況に応じた適切なリノベーションを実施して、理想的な暮らしを実現できるでしょう。
目次
古民家をリノベーションするメリット
リノベーションは、大規模な工事を伴うことが多く、場合によっては新築の物件以上に快適性を向上できます。古民家をリノベーションすると、次のようなメリットが生まれます。
- 味わい深い日本家屋の雰囲気が楽しめる
- 工事方法によって固定資産税が安くなる
- 建物の寿命を延ばせる
- 貴重な資源の保護に貢献できる
味わい深い日本家屋の雰囲気が楽しめる
古民家には、剥き出しになった太い柱や梁、ふすま、土間など、伝統的な木造建築特有の雰囲気を味わえます。
そのため、近年の住宅とは異なる味わい深い住まいを探している方には、古民家が向いているでしょう。
古民家にリノベーションを実施することで、このような雰囲気を残しつつ、住みやすさを改善できるのが利点です。
ただし、リノベーションで使用する建材によっては、古民家の雰囲気と合致しない可能性も考えられます。リノベーションを行う際は、事前に施工会社とよく相談することをおすすめします。
工事方法によって固定資産税が安くなる
固定資産税は、「固定資産税評価額 × 1.4%(標準税率)」の計算式で算出されます。
その際、経過年数に応じた価値減少が評価額に反映されるのが特徴です。つまり、築年数が経過して価値が低下した古民家は、固定資産税の減額につながります。
また、耐震改修や省エネ改修など、特定の工事を行うことで固定資産税の優遇措置を受けられます。
一方、リノベーションによって固定資産税が上がるケースも考えられます。
例えば、機能性や耐久性が向上する大規模な増築を行うと、建物の価値が大幅に高まり、納税額が増える可能性があります。
建物の寿命を延ばせる
リノベーションでは、建物の価値を高めるために耐震改修や断熱工事、バリアフリー化などを実施することがあります。
このような施工を行うことで、建物そのものの耐久性や安全性が増し、寿命が延びる可能性も考えられるでしょう。
古民家に多い木造住宅の法定耐用年数は22年(1998年改正)。本来、高寿命のSRC造に比べて耐久性に難がある木造住宅ですが、リノベーションによって寿命延長を図れるのは大きな利点です。
貴重な資源の保護に貢献できる
古民家の柱や梁には、ヒノキやケヤキなどの貴重な資材が使用されていることもあります。
現在では、これらの資材の入手が困難なことから、古民家をリノベーションして維持することは、貴重な資源の保護につながります。
貴重な資源を守るということは、日本家屋の歴史や温もり、懐かしさを保護することにも寄与するでしょう。
参考:板蔵(ITAKURA)|一番高額な木(樹種)は何の木?
古民家リノベーションの費用相場
古民家のリノベーション費用は、内容によって大きく異なるため、一概に価格を明言することはできません。
ただし、フルリノベーションを検討する際は、最低でも1,000万円以上の予算を用意しておくと良いでしょう。また、リノベーションには、特定の箇所のみを施工する部分リノベーションもあり、施工箇所によって費用が異なる点に注意が必要です。
ここでは、フルリノベーションと部分リノベーションの費用の目安を紹介します。
フルリノベーション費用
古民家のフルリノベーションは、住宅を骨組みの状態まで解体し、工事を行う方法です。構造部分を残して住宅を建て直せるため、カスタマイズ性に優れています。
フルリノベーションの費用は、1,000~2,500万円が大まかな目安です。
また、構造部分の腐食具合や延べ面積によっても費用が異なります。延べ面積が50~60坪と広大になれば、3,000万円以上の費用がかかることもあるので注意が必要です。
築浅物件に比べて古民家は、耐震性や断熱性に欠けるケースも珍しくありません。リノベーションにかかる費用が高くなってしまう場合もあるため、十分に余裕のある予算を確保することが重要です。
部分リノベーション費用
フルリノベーションとは異なり、1部屋のみの改修や、設備交換といった部分的な施工を行うことも可能です。工事の範囲を狭めることで、工費を最小限に抑えられます。
部分リノベーションは施工範囲や建物の劣化具合によって金額が異なるため、あらかじめ施工会社に確認が必要です。
各部分のリノベーション費用の大まかな目安は次の通りです。
施行箇所・内容 | 費用の目安 |
---|---|
耐震工事 | 120~150万円 |
断熱・気密工事 | 床下:20~30万円 天井:15~25万円 壁:50~100万円 内窓:5~15万円/箇所 玄関ドア:50~110万円 |
屋根 | 塗装:20~40万円 重ね葺き・葺き替え:50~250万円 |
外壁 | 補修:50~80万円 塗装:60~100万円 重ね張り・張り替え:130~400万円 |
キッチン | 50~150万円 |
トイレ | 15~60万円 |
浴室 | 50~200万円 |
洗面所 | 15~50万円 |
間取り変更 | 間仕切り壁設置:5~20万円 壁・ドアの新設:15~30万円 LDK変更:100~300万円 |
クローゼット設置 | 壁付けクローゼット:10~50万円 ウォークインクローゼット:20~80万円 |
古民家リノベーションにかかる期間
フルリノベーションの施工期間は4〜6ヶ月程度です。内訳としては設計期間に2〜3ヶ月、工事期間は2〜3ヶ月ほどかかります。
部分リノベーションなら2週間程度で完了する工事もありますが、古民家の場合、大規模な修繕を必要とするケースがほとんどです。特にフルリノベーションの場合は、一度構造部分以外を引き剝がすことから、工事が完了するまで住居に住むことができません。
そのため、古民家への引っ越しを検討している場合、無計画に工事を進めてしまっては、一時的に住む場所が必要になるケースもあります。古民家をリノベーションする際は、工事完了までのスケジュール感を踏まえ、綿密な計画を立てることが大切です。
古民家リノベーションで優先すべき箇所
古民家のリノベーションは、規模の大きさから費用が高くなることも多いため、できるだけコストを抑えたい方もいるでしょう。その場合、リノベーションする箇所の優先順位を決めることで、費用をある程度抑えられます。
ここでは、古民家リノベーションで優先すべき箇所について見ていきましょう。
- 耐震性
- 断熱性・気密性
- 屋根・外壁・サッシ
- 水回り
耐震性
古民家の多くは、新耐震基準が制定されるより前に建築されています。
そのため、まずは耐震診断を行って、構造自体の耐震性はもちろん、柱や梁などの基礎の劣化や地盤のゆるみなどを確認します。診断後は必要に応じて耐震工事を実施しましょう。
耐震工事の費用は、建物の劣化具合によって変動します。なかでも多いのが、壁を耐力壁に取り替える工事です。壁のなかに筋交いを入れ、上から構造用合板を貼り付けます。耐力壁にする箇所が多ければ多いほど費用が高くなるため、注意が必要です。
また、一般的な古民家には瓦葺屋根が採用されています。この瓦を粘板岩で作られた軽量なスレートに替えることで、屋根を支える負担を減らし、耐久性を高められます。
耐震工事は、その規模の大きさから費用が高くなりやすいものの、建物が長持ちしたり、固定資産税を低減したりなどメリットが大きい工事です。加えて、自治体によっては補助金給付の対象にもなり、工事費用を抑えられるでしょう。
断熱性・気密性
古民家には断熱材が敷かれていないケースもあり、現代の一般的な住宅に比べ、断熱性や気密性が見劣りすることがあります。
断熱性と気密性を高めると暮らしやすさが向上するため、優先的にリノベーションを行うのがおすすめです。特に、雪が多く降る地域や寒冷地の場合は、冬の暖房費用の節約にもつながるため、重要な工事といえるでしょう。
ただし断熱工事は、天井・床下・壁など、工事の規模が家屋全体にわたるため、引っ越し前に行うことをおすすめします。また、窓や玄関ドアを替える際は、古民家の雰囲気に合うデザインを選ぶ必要があるため、十分に検討しましょう。
屋根・外壁・サッシ
築年数が経過した古民家は、屋根や外壁、サッシの経年劣化が目立つケースも多いでしょう。
劣化部分を放置すると、隙間から雨水が侵入し、柱や梁といった構造部分の腐食につながる恐れがあります。また、隙間風や虫の侵入が気になるなど、生活するうえでの弊害にもなり得ます。
そのため、屋根・外壁・サッシの優先度も高めです。リノベーションを行う際は、まず専門家の住宅診断を受け、必要に応じて施工を行います。
特に屋根や外壁は劣化しやすく、放置すると建物の寿命に大きな影響を与える可能性があるため、優先してリノベーションすることをおすすめします。
水回り
古民家のなかでも、劣化が激しい箇所として水回りが挙げられます。
水回りは、リノベーションを行うことで、電気代や水道代の節約につながるため、優先して改修するのがおすすめです。
特に、資金に余裕があれば、浴室をユニットバスに取り替えると良いでしょう。ユニットバスは気密性に優れており、お湯や浴室内の暖かさを維持できるため、冬の寒さを軽減できます。
水回り設備のリノベーションは、給排水管も取り替え・修繕ができるため、水漏れ防止にも効果的です。
古民家をリノベーションする際の注意点
古民家リノベーションには多くのメリットがある一方、費用面や施工会社選びでいくつか注意点があります。リノベーションを失敗しないためにも、注意点を押さえ、早めに計画を立てましょう。
- 一般的な住宅よりも高額な費用が発生しやすい
- 予算を超える可能性がある
- 古民家に対応できる施工会社が少ない
一般的な住宅よりも高額な費用が発生しやすい
古民家は耐震性や断熱性が低かったり、劣化が酷かったりする可能性があるため、リノベーション費用が高くなりがちです。また、金具や釘を使わず、木と木をつなぎ合わせる木組みという工法で建てられた古民家もあり、修繕に手間がかかるケースも少なくありません。
そのため、新築住宅や築浅物件を購入する際よりも、資金に余裕を持たせておくことが大切です。
費用を抑えるためにも、リノベーションする箇所の優先順位を明確にして、計画的に準備を行いましょう。
予算を超える可能性がある
想定外の費用が発生しやすいのも古民家リノベーションの難点です。
リノベーション開始後に、屋根や床、壁の下地などに劣化が見つかると、追加費用がかかることもあります。築年数が経過した古民家は、実際に解体してみないと劣化具合がわからないことがあるためです。
また、もともと希少な資材を使用していることから、リノベーション時の建材にこだわり過ぎると、材料費が高額になり、予算を超えることも少なくありません。さらにリノベーションする範囲が広くなれば、特に構造部分の工事で廃材が増え、その処分費がかさんでしまうでしょう。
このような点を踏まえつつ、余裕のある予算を設定することが大切です。
古民家に対応できる施工会社が少ない
古民家は伝統構法で建てられており、構造や間取り、材質などが現代の住宅と異なります。伝統構法に馴染みの薄い施工会社も存在するため、リノベーションをする際は、建物の構造や状態を細かく確認しながら進めていく必要があります。
リノベーションの実績があっても、古民家のリノベーションを手がけたことがなく、対応できない場合も考えられます。
複数の施工会社を比較し、担当者と打ち合わせを重ねたうえで、古民家リノベーションの向き・不向きを判断することが大切です。
古民家リノベーションに関する補助金制度
古民家をリノベーションする際は、補助金制度や減税制度が利用できます。
コストを抑えるためにも、どのような制度があるのか、事前に把握しておしましょう。
リノベーションに関する補助金制度
古民家リノベーションに関する補助金には、耐震補強や省エネ、バリアフリーなどのさまざまな種類があります。それぞれの制度を活用することで、リノベーション費用を大きく抑えられるため、工事の実施前にあらかじめ把握しておきましょう。
代表的な補助金制度は次の通りです。自治体によって制度の種類や内容が異なるため、詳細は各自治体のホームページをご確認ください。
- 耐震補強に関する補助金:耐震診断や耐震工事の費用の一部を補助する制度
- 省エネ化に関する補助金:断熱工事や太陽光パネルの設置などの工事費を補助する制度
- バリアフリーに関する補助金:バリアフリー化の工事費の一部を補助する制度
各制度を実施している自治体は、一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会の公式サイトから検索できます。住みたい地域が決まっている方は活用してみてください。
リノベーション時に活用できる税制特例
国が用意している税制特例を活用すると、固定資産税の軽減や所得税の控除など、税制度における負担を軽減できます。以下のいずれかのリノベーション・リフォームを対象に、税に関する優遇措置を受けることが可能です。
- 耐震改修
- 省エネ改修
- バリアフリー改修
- 長期優良住宅化
- 同居対応改修
上記のうち同居対応改修に関しては、所得税の控除のみが適用されます。固定資産税の軽減措置を受けることはできないので、注意が必要です。
改修方法によって軽減される金額や割合が異なるため、詳細は国土交通省のホームページを参考にしてください。
※2023年11月に執筆した記事です。最新情報は国土交通省|住宅:各税制の概要をご確認ください。
古民家をリノベーションして理想の移住生活を送ろう
古民家のリノベーションには、古民家特有の雰囲気を味わえたり、固定資産税を軽減できたりと多くのメリットがあります。ただし、工事費用が高くなりやすいため、適切な予算を設定し、補助金の活用も視野に入れると良いでしょう。
古民家で暮らすため、地方移住を検討している方もいるでしょう。
いままで都会で暮らしていた方にとっては、地方移住によって生活環境が大きく変化します。そのため、適切な知識を習得し、入念な準備を心がけることが大切です。
こちらの記事で地方移住のメリットや成功の秘訣を紹介していますので、ぜひ参考にしてください。